クルーリーダー。ロイヤルホストではアルバイトスタッフを「クルー」と呼び、その中で、ある一定の時間帯に時間帯責任者としてシフトインする資格のあるアルバイトを「クルーリーダー」といいます。私は夜間の調理学校に通っていましたから、働くとしたら朝から夕方までか、夜から朝までの二択でした。
深夜には手当がつきますから、学費稼ぎに必死な私は深夜帯のアルバイトを探し、オープニングスタッフとして学校のあるすぐ近くにオープンする「ザ・ロイヤルホスト&ステーキハウス」に接客係として働き始め、深夜帯のクルーリーダーとして22時から翌朝の7時まで働いていました。
オフィス街でしたので深夜帯にはあまりお客様の来店はなく、客層もそれほど悪くなかったのですが、このクルーリーダー(時間帯責任者)としてロイヤルホストの深夜帯で働いているとき、今でも忘れられない出来事がありました。それは、いわゆるこちらのミスによるクレームなのですが…。
私はレジ締めをするために事務所にこもって計算と報告書の作成をしていました。そのときスタッフの一人が事務所までやってきて「お客様が写真と違うとおっしゃってます」と報告を受けたので、私は「それではもう一度マニュアル通りに作り直してお出しして」と伝え、自らは対応することなくレジ締めの続きをしていました。このレジ締めにもタイムリミットがあり、24時の時点で一日の売上を締めて、午前2時までにチェックをすべて終えてデータ送信しなければいけなかったので、私はそのレジ締め報告のタイムリミットへの焦りもあり、そのクレームをクルーに任せてしまいました。
少ししたらまたスタッフがやってきて、やはり写真と違うとお客様はおっしゃってます、というので、さすがにこの時点で私も異変に気づきホールに出ました。私がもう一度作り直してそのお客様に持っていくと**「だから!写真と違うじゃねぇか!!」**といった具合で猛烈にキレてらっしゃって…。何というかもう手がつけられない感じになっていまして、そのあとはもうひたすら謝り倒し、挙句にその方(ちなみに土建屋の社長さんです、多分)が帰り際「うちの若い衆この後連れてくるから、覚えとけ!!」的な捨て台詞までいただき…。もう肝が冷え冷えで、なんか軽いパニックになっていました。
この出来事は深夜のことで、私は朝の7時までの勤務でしたが、社員が来るのが8時か9時なので、置き手紙をして「~~こんなことがありお客様を怒らせてしまい~…」といった一部始終を手紙に書いて家に帰りました。
この「写真と違う」とは何だったかといいますと、「アイスカプチーノ」でした。写真ではエスプレッソとホーミングミルクがきれいにセパレートしていて、グラデーションもほぼなくくっきり分かれていたのですが、実際に提供した「アイスカプチーノ」は、提供する間に少し混ざって、確かに写真とは違う…。
このクレーム、私にとって本当に良い経験となったのですが、この時はとにかく怖かった…。結構長いことこの方からのお叱りを受けてまして、「アイスカプチーノとは??」みたいな問題まで出されて、もうぐりぐりに攻められました。ちなみに若い衆はその後来ることはなく、クレームをしてくれたそのお客様は、何なら私のことを応援してくれるお客様になっていたのですが(笑)。
今でも忘れることのできないこの出来事は、私にとってとても重要なことをいくつか教えてくれました。まず、クレーム対応の鉄則として、迅速に、そしてその現場のトップが対応すること。私はレジ締めに追われ、最初のクレームの段階でお客様の顔も見ることなくクルーに対応させてしまった。これが一番の間違いでした。
そして、そのようにしてこじれたクレームの対応はかなり難しくなるということ。大体のクレームは二次災害といいますか、その対応の悪さでこじれてお客様を怒らせる場合がほとんどで、その最初の出来事自体は、ほとんどの場合は迅速に真摯に対応することで解決できる。まさにこの時、私はその最初の対応をサボったのです。お客様に言わせれば「なめるなよ!」となるのは当然です。とても勉強になりました。
そしてもう一つ勉強になったのが、クレームはチャンスにもなり得るってこと。私は最初の対応を間違えてお客様を激怒させてしまったのですが、そのあとはひたすらに謝り、真摯に向き合いました。怖かったからなのですが(笑)。それより「ロイヤルホストの看板を私がとった行動で汚してしまう」という恐怖が一番にありましたから、とにかく真剣でした。
今思えばですが、「申し訳ございませんでした」で終わることのできたことで、お客様もそれで「はいはい」と終わってもよかったように思うのですが、私がお客様が納得するまで食い下がっていたんじゃないかって(笑)、今はそう思うのです。そんな対応に対して、そのお客様はどう感じてくださったのか、その後は私をとても気に入って下さり、「こいつは根性があるけーのー(「けーのー」とは言ってなかったです)」と、何度もご来店下さるようになりました。